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ラボ駅伝にGMS学部石橋直樹先生のインタビューが掲載されました

社会課題の解決とコンピューターサイエンス

文系 × ITで
社会に役立つ研究成果を


私の専門はコンピュータサイエンス。おもにデータベースを活用したソフトウエアの研究開発ですが、駒澤大学では学際志向の文系の学生たちに基礎的なwebの技術や、それを使ったシステム制作を指導しています。
そもそも私も学生時代は文系で、政治学を勉強していました。「今を知るには過去を学べ」と言われて、明治維新、特にあの時代の日本が、海外からの技術でどう変化したのかを研究していたんです。ところが、大学院に進む時期にある先生から「歴史も大事だけれど、いままさにIT技術で世界が激変しようとしているのだから、そこに関わることを考えてみたら」とアドバイスをいただきました。ちょうど90年代初頭、インターネットが普及し始めたころでした。そこで、大学院ではデータベースの研究を始めたのです。
中学生のころから、電子手帳を見て、「年表なんか暗記しなくてもいい時代が来るはず」とデジタル・データに関心を持っていました。運良く高校でデータベースを学ぶ機会もありました。でも自分にとってコンピュータはあくまで”趣味の世界”だと思い込んでいたんですね。ところが大学院でデータベースを研究することになって、さっそく学部生時代に学んだ歴史とITを融合させてみようと考えました。歴史の解釈は研究者の視点によって変わりますよね。中東の紛争も、イスラエルの視点から見るのと、パレスチナの視点から見るのではまるで違ってくる。ならば、さまざまな研究者の歴史的解釈によるできごとをコンピュータで時空間的にまとめたら、真実が見えてくるのではないか。歴史こそコンピュータを活用すべきだと論文にまとめました。
同時に、歴史だけじゃなくコンピュータを生きた形で社会に流し込める人が、もっと必要ではないかと考えたのです。そこで、そのための会社を立ち上げました。気持ちとしては、半分はビジネスマン、半分は研究者です。もう1人の仲間とともに、ITのコンサルティングからシステムやコンテンツの企画制作、サービスまでを提供し、それ自体が自分の研究成果だと考えてやってきました。
 
Tシャツで
再生可能エネルギーを売る?!


手がけた事業はいろいろありますが、10年ほど前の「日本初の個人向け再生可能エネルギーweb販売システム」は話題になりました。当時は再生可能エネルギー(以下、再エネ)の認知も低く、電力は地域独占で個人は電力会社を選べませんでした。そこで再エネの普及を図るため、数社の企業が再エネによる”環境価値”を「グリーン電力証書」として販売し、クライアント企業がそれを買うことで消費者に環境貢献をアピールできるしくみが作られました。私たちはそれを個人でも楽しく参加できるような形にしたのです。
 
まず、ネット通販でエアコンの絵と”This summer my air is CO2 free!”と書かれたTシャツを販売し、売上の一部を「グリーン電力証書」の発行企業に納めます。これは環境価値相当分として再エネの発電事業者に資金が行くしくみで、行政機関や研究所からなる認証機関が取引の正当性を検証します。購入者はTシャツに付いてくるシリアル番号をパソコンから入力すると、購入したグリーン電力の内訳が確認でき、さらに、入力された購入者情報は自動的に認証機関に転送され、購入者に「グリーン電力証書」がweb発行されるというしくみです。Webを活用することによって、一気通貫で電力会社も認証機関も個人も手間をかけることなく、再生可能エネルギーの拡販ができたわけです。

MIKA(ミーカ)というアメリカの人気ポップシンガーの来日プロモーションも面白かった。「1日スケジュールを空けるから何か考えてほしい」というオファーを受けたんです。そこで、来日コンサート直前に彼のSNSで「僕の来日特別サイトをつくったから見てね!」、「サイトにアドレスを登録すると何かが起こるよ」と呼びかけてもらった。そしてコンサート当日、会場に来たユーザー登録者に抽選で「明日、MIKAがあなたに会いたいと言っています」とメールを送ったのです。ホールのあちこちから歓声が上がりました。翌日、指定された場所に行くとMIKAが現れ、ピアノを弾いて歌い出すというしかけです。後日、ユーザー登録者全員に、ハイレゾのビデオ映像が見られるアドレスが付いたクリスマスカードも送って大変な反響でした。難しい技術はひとつも使っていませんが、ファンに強烈な思い出を演出してMIKAさんも大喜びしてくれました。
 
Webサービスの企画って、ある種、詩でありアートでもあります。技術的に超簡単でも、人のこころにさされば流行る。それがwebメディアの本質だと思っています。
 
最低限のスキルとアイデアで
社会を変えよう


私のゼミに来るのは学際領域を学びたいという文系の学生たちが大半ですが、webの企画なら文系の方が圧倒的に強いと私は考えます。政治や経済、社会や心理学などを踏まえたうえで、何がビジネスになるのかを考えられるんですから、あとはプログラミングさえ覚えればいい。Webの基礎なら文系でも半年で覚えられます。それをベースに、私もアシストしながら10年近く学生たちと研究開発をしてきましたが、これならベンチャーとしても成立するなという案件が2、3年に1つは出てくるんですよ。
 
研究室は私の経営する会社と連携させています。私に来たオファーの中から、会社でやるべき案件と大学の研究としてやるべき案件に割り振っており、学生たちも社会的な実証実験に取り組むことができるのです。学生は自動的にわが社のインターンのような位置づけで、会社のサービスや設備を活用しながら研究成果を世の中に問うていくわけです。
 
これからのIT人材は、多様な学問を身につけITを活用しながら世の中を切り拓くスキルが重要です。私たちはそれを先行的に実験しているのかもしれません。もちろん研究室で論文を書くのも大事ですが、私にとっては現場に出て困っている人の話を聞いてサービスを作り、それを届けて反応を見るところまでが研究であり仕事です。
Tシャツの再エネ販売では2万人近い人と関わることができましたが、再エネの発電所を増やすことはできませんでした。そのとき、これは自分一人でやるより、自分と同じような人を増やした方が社会を変えられるんじゃないかと思ったんです。最低限のスキルと社会を変えるアイデアを出す能力、それを学生たちに伝えていけば、いつかあちこちで芽を出し、花を咲かせてくれるだろうと夢見ているんですよ。
 
コニュニケーションの舞台に着目すれば
次のソリューションが見えてくる


いま注目しているテーマのひとつは、これからのデジタル・コミュニケーション。Html(※)によってweb上のコミュニケーションが始まったわけですが、やがてhtmlを知らなくても発信できるブログが現れ、仲間とやりとりするFacebookなどのSNSが登場しました。さらに140字だけでコミュニケーションするTwitter、写真を見せるInstagram、スタンプをやりとりするLINEなどが流行ってきたわけです。
この変遷は、通信コスト、すなわちコミュニケーションの手間を減らす歴史で、これを私は「マイクロ・コミュニケーション」と呼んでいます。ただ、コミュニケーション・ツールに絶対はないし、行くところまでいったら必ず揺り戻しがきます。もっとファットなコミュニケーションに戻ろうと、ダンスを見せ合うTikTokが登場したのもその兆しかもしれません。
 
現状のようなスマホやタブレット端末がいつまで使われるかということも意識すべきです。ウェアラブル端末も出てきたし、近々ビッグウェーブが来るでしょう。コミュニケーションがマイクロ化すれば端末も変わる。舞台設定が変われば、ものづくりも大きく変わりますからね。
 
実は今、ある美術館のリニューアルに伴うプロジェクトに関わっています。詳しくはお話しできませんが、現代のデジタル・コミュニケーションを象徴するようなプロジェクトです。ITを館内で徹底的に活用しようというものですが、美術館に来る方には絵をじっくり見てほしいと。つまり、究極的にはIT端末はないほうがいい。すごく矛盾していますよね。そこをどう料理するか。研究者人生をかけて取り組んでいます。近々、詳細も発表されるので楽しみにしていてください。
 
(※)・・・Hyper Text Markup Language。ウェブページを作成するために開発された言語

Profile

石橋直樹講師1996年、慶應義塾大学総合政策学部卒業。1998年、同大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。2002年、同研究科博士課程単位取得後退学。博士(政策・メディア)。2005年、株式会社Governance Design Laboratoryを設立。データベースシステム、マルチメディアシステム等の研究開発に従事。2006年より現職。株式会社Governance Design Laboratory代表取締役も務める。

(Source:https://www.komazawa-u.ac.jp/plus/topics/lab-ekiden/7556.html

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